■ “理想の定年”という質問のトラップ
就職説明会やキャリア相談、あるいはニュースのインタビューで、よく耳にする質問があります。
「何歳まで働きたいですか?」
しかし、多くの人の心の中にはこういう声が響いているはずです。
「そもそも働きたくないに決まってるじゃないか…」
もちろん、人はお金がなければ生活できません。だからこの質問は表向き「やる気」や「人生設計」を探るもののように見えますが、実際は**“働きたいかどうか”ではなく、“働かざるを得ない年齢”**を探っているともいえます。
■ 本音と建前のギャップ
例1:理想は“明日からでもやめたい”
東京都内の30代会社員・Aさん:
「宝くじが当たれば、明日からでも退職したいです。働くのは嫌いじゃないですが、時間を自由に使えるなら絶対にそうしたい。」
これは多くの人が共感する意見でしょう。つまり、働きたいのではなく、生活のために働いているという現実。
例2:好きな仕事なら一生でも?
長野県の蕎麦職人・Bさん:
「趣味で始めた蕎麦打ちを生業にしています。正直、引退する年齢は考えていません。体が動く限り続けたい。」
こういう例もありますが、これは**「労働=生きがい」の特殊なケース**。大半の人は“生活のための労働”が大部分を占めています。
例3:経済的不安が答えを変える
厚生労働省の調査によると、「65歳以降も働きたい」と答える高齢者は年々増加しています。
しかし詳細を聞くと、その理由の多くは**「年金だけでは生活できないから」**。
これは“働きたい”というより、“働かざるを得ない”という回答です。
■ 「何歳まで働きたいですか?」の隠された本質
- 経済的理由が大半
生活費・住宅ローン・教育費・老後資金など、現実的な負担が「働きたい年齢」を押し上げます。 - 働きたい=健康でありたい
特に高齢層では、働ける=健康で社会と関わっていられる証拠、と考える人もいます。 - “働かなくていいなら”の条件付き
多くの人は「生活資金が十分あるなら、すぐにでもやめたい」というのが本音です。
■ まとめ:質問を変えるべきかも?
「何歳まで働きたいですか?」という質問は、本来はやる気や生き方を問うものですが、現代では経済的背景を無視しては答えられない質問になっています。
むしろ、これからはこう聞くべきかもしれません。
- 「お金の心配がなければ、何をして過ごしたいですか?」
- 「どんな働き方なら長く続けたいですか?」
そうすれば、“働きたくない”という本音と、“生きがいとしての活動”を区別して語れるようになるでしょう。