かつて「爆買い」という言葉がニュースを賑わせたように、日本は長らくインバウンド(訪日外国人観光客)需要に大きく依存してきました。観光業、宿泊業、小売業、さらには不動産までもが外国人観光客の消費をあてにした経営モデルを築き上げたのです。しかし、その「インバウンド頼み」の経済には限界やリスクもはらんでいます。


【1】外国人頼みの都市経済:京都の事例

例えば京都。コロナ禍前には、外国人観光客が年間約870万人も訪れ、「オーバーツーリズム」という言葉が生まれるほどの混雑ぶりでした。ところがパンデミックにより観光客が激減した2020年、京都市は財政危機に直面。収益の柱としてきた宿泊税収や観光消費が激減し、地下鉄延伸などの大型公共投資がストップする結果となりました。

このように、一部の都市が「外国人観光客頼り」の経済構造を取りすぎると、外的要因で簡単にバランスが崩れてしまうのです。


【2】地元住民の生活が犠牲に:浅草・箱根・沖縄

浅草では、夜になると外国人観光客で溢れ、日本人の姿が見えないほどの混雑になっています。一方で、地元住民が生活に必要な商店街の小売店や食堂が、インバウンド向けの高級飲食店や観光グッズ販売に置き換わる現象も起きています。沖縄の一部離島では、観光シーズンに「地元の人が買い物できない」「通院できない」という声も上がるほどです。

つまり、観光客の「消費」は都市や地域の短期的な経済を潤す一方、地元住民の生活インフラや福祉を圧迫するリスクもあります。


【3】雇用構造の偏りと将来不安

観光業や宿泊業に人材が偏り、安定性に乏しい雇用が増加するという問題もあります。例えば東京都内のホテル業界では、外国人観光客が戻ってきた現在も「人手不足」が深刻で、非正規雇用や長時間労働に頼る現場が多数あります。これでは若年層が将来を見据えて働ける環境とは言い難く、「観光が盛り上がっているのに、地元経済は豊かにならない」という“矛盾”が生まれます。


【4】為替頼みの不安定さ:円安バブルの裏側

2024年〜2025年にかけての円安も、インバウンドバブルを引き起こす要因となりました。1ドル=160円前後という円安により、外国人にとっては「日本は激安の観光地」となり、再び爆買い現象が起きています。しかし、これは言い換えれば「日本人が貧しくなっているからこそ、外国人には安く映る」という現実の裏返しでもあります。


【まとめ】「観光立国」から「内需再構築」への転換を

インバウンドを否定する必要はありませんが、依存しすぎることのリスクは明白です。観光は“おまけ”であって、“柱”ではありません。今こそ、内需を支える地場産業や中小企業への支援、労働環境の整備、若者や子育て世代の生活支援など、「地元の人が安心して暮らせる経済」への転換が求められています。

観光は「地域を彩るもの」であって、「地域を支配するもの」ではあってはならないのです。

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