2025年11月、三陸沖を震源とする地震が連続して発生しています。震度の大きな揺れは観測されていないものの、「この活動が巨大地震の前触れではないか?」と懸念する声が広がっています。
この記事では、最新の地震活動の概要から、地震学的に「トリガー(引き金)」とは何か、そして過去の事例と現在の科学的評価を踏まえて、冷静に状況を分析します。
1. 三陸沖で続く地震活動の概要
11月上旬、三陸沖(岩手県沖から宮城県沖にかけて)でマグニチュード4〜5クラスの地震が相次いでいます。震源の深さはおおむね10〜50kmで、太平洋プレートが沈み込む境界付近で発生しているとみられます。
これらの地震の多くは「プレート境界型」または「スラブ内地震(沈み込むプレートの内部で発生)」と呼ばれるタイプです。大半は小規模であり、津波を伴うことはありませんが、震源分布がプレート境界近傍に集中していることが注目されています。
2. 「トリガー地震」とは何か
「トリガー地震」とは、他の地震の発生を誘発する(引き金となる)地震のことを指します。
地震は地下の断層に蓄積した応力(ひずみ)が破壊されることで起きますが、ひとつの地震が発生すると周辺の地殻に応力が再配分されます。その結果、隣接する断層の応力が高まり、別の地震が発生しやすくなることがあります。
これは「静的応力転移(Static stress transfer)」と呼ばれ、地震学ではよく知られた現象です。
ただし、トリガー効果はすべての地震に当てはまるわけではなく、
- 地震規模(Mが大きいほど影響範囲も広がる)
- 震源の位置関係(隣接かどうか)
- プレート境界の応力状態
など複数の条件が重なった場合にのみ「引き金」となる可能性があるとされています。
3. 過去の「トリガー現象」が疑われた事例
三陸沖・東北地方の周辺では、過去にも小〜中規模の地震活動が後に大地震につながったケースがあります。
● 2011年 東日本大震災(M9.0)前の地震活動
2011年3月9日、三陸沖でM7.3の地震が発生しました。その約2日後に、M9.0の東日本大震災本震が発生しています。
後の研究では、この3月9日の地震がプレート境界に蓄積していた応力の一部を解放しつつ、別の領域の応力を高めた可能性が指摘され、「トリガー地震」であった可能性が議論されました。
ただし、当時のM7.3級の地震はかなりの規模であり、今回のM4〜5クラスとはエネルギー的に数百〜数千倍の差があります。今回のような中規模地震が即座に巨大地震を誘発する可能性は低いと考えられています。
● 1933年 昭和三陸地震(M8.4)
この地震もまた、発生の数日前から周辺で小規模な地震が続いていたことが知られています。しかし当時の観測網は現在ほど整っておらず、「前震活動」なのか、単なる通常活動なのかは断定されていません。
4. 現在の地震活動の科学的評価
気象庁および防災科学技術研究所(NIED)によると、現在の三陸沖での地震活動は「特異な群発的傾向はあるが、即座に巨大地震と結びつける根拠はない」としています。
理由としては:
- 現在観測されている地震の規模が比較的小さい(M4〜5程度)。
- 応力転移の影響範囲が限られている。
- プレート境界全体の滑りや異常変動は観測されていない。
- GNSS(地殻変動観測)データでも大きな異常は見られない。
つまり、現時点では「通常のプレート活動の一部」とみるのが妥当とされます。
5. 一方で油断は禁物 — 長期的リスクは続く
三陸沖から房総沖にかけては、東北日本と太平洋プレートの境界が広がっており、長期的にはM7〜M9級の地震が繰り返し発生してきました。
政府の地震調査研究推進本部による最新評価では:
- 三陸沖北部:M7〜8級の地震発生確率は今後30年以内に20〜30%程度
- 宮城県沖:同じく90%程度
とされており、将来的な大地震リスクは依然として高い状態にあります。
つまり、「今の小地震がトリガーになる可能性は低い」一方で、「地域として大地震リスクを常に抱えている」ことは変わらないのです。
6. 私たちが取るべき備え
地震予知は困難ですが、「被害を減らす備え」はできます。
- 津波警報が出たらすぐに高台へ避難
- 避難経路を家族と共有し、夜間でも移動できるようにライトを準備
- 防災アプリや気象庁の速報を常に確認
- 家具の固定・非常用電源・飲料水の備蓄
地震の「前触れ」を探すよりも、“いつ起きても対応できる”状態を維持することが、最大の防災対策です。
まとめ
- 三陸沖で地震が相次いでいるが、現時点で巨大地震のトリガーと判断できる科学的根拠はない。
- 過去には「前震」的な活動が大地震につながった例もあるが、今回の地震規模はそれよりはるかに小さい。
- ただし三陸沖全体は長期的に地震活動が活発な領域であり、油断せず備える姿勢が重要。
「トリガーかどうか」を恐れるよりも、「どんな地震でも被害を最小限に抑える準備」が私たちにできる最善の行動です。