上野動物園の双子パンダ、シャオシャオとレイレイが1月末に中国へ返還されることが報じられました。これにより、国内の動物園からパンダが一時的に不在となる見込みです(※一部施設除く)。
このニュースに対し、「寂しい」「日本のパンダがいなくなるのは困る」という声が多く聞かれます。しかし、環境保護と国際協力という視点から見ると、**パンダが日本にいなくなることは、実は「全く問題ない」、むしろ「本来あるべき姿」**なのです。
今回は、感情論を抜きにして、なぜ日本の動物園からパンダがいなくなることが問題ではないのかを、具体例を交えて解説します。
1. 🐼 パンダは「レンタル」であり、日本の所有物ではない
まず、大前提として日本の動物園にいるパンダは、中国から借りている**「レンタル物件」**であり、日本の動物園の所有物ではありません。
具体例:「パンダ保護研究貸与協定」
この協定に基づき、日本はパンダ一頭につき年間およそ100万ドル(約1億4000万円)もの「保護貢献費(レンタル料)」を中国に支払っています。
この協定には、以下の条件が組み込まれています。
- 所有権: パンダ本体と、日本で生まれた仔パンダの所有権はすべて中国にあります。
- 返還義務: 繁殖を終えたパンダや、ある程度成長した仔パンダは、繁殖適齢期を迎える前に中国へ返還しなければならない。
今回の双子の返還は、国際的な取り決めに則った**「期限が来たから返す」**という事務的な手続きに過ぎません。日本の動物園がパンダを「維持し続ける」ことは、最初から協定上想定されていないのです。
2. 🌍 パンダ外交ではなく「種の保存」が目的
パンダの貸し出しは、かつての「パンダ外交(友好の証)」から、現在はより厳格な**「絶滅危惧種の国際共同研究・保全活動」**という位置づけに変わっています。
具体例:種の保全への貢献
日本が支払う巨額のレンタル料は、中国国内のパンダ生息地の保護活動や、繁殖研究、そして野生に戻すためのトレーニング施設運営などに使われています。
つまり、日本の動物園の役割は、パンダの姿を公開することではなく、**「繁殖に成功し、繁殖適齢期の個体を中国へ送り出し、野生個体群の多様性を維持することに資金面と研究面で貢献すること」**にあります。
- 双子パンダは、中国の施設で世界中から集まった若齢のパンダたちと交流し、遺伝的多様性を確保するための国際的な繁殖プログラムに組み込まれます。
日本のパンダがいなくなることは、**「日本の役目は終わり、国際的な保全プログラムの次のフェーズに移行した」**ことを意味し、むしろ役割を果たした証なのです。
3. 🐻 国内の「他の希少動物」に目を向ける好機
パンダは確かに世界的なスターですが、国内の動物園がパンダの維持に集中することは、予算、スペース、人材といったリソースを、パンダ以外の動物に割けなくなるという側面もあります。
具体例:地方の動物園や国内固有種の保全
パンダ不在の期間は、来園者やメディアの関心が、今までパンダの陰に隠れていた国内の絶滅危惧種や地域固有種に向く絶好の機会です。
- 例えば、ツシマヤマネコ(長崎県対馬に生息する固有種)や、ライチョウ(日本の高山に生息)など、日本国内で深刻な危機に瀕している動物たちの展示や保全活動に、スポットライトが当たる可能性があります。
- 動物園側も、パンダの維持・飼育に必要だった高額な費用や人的リソースを、より多様な動物の福祉向上や保全教育に振り分けられるようになります。
まとめ:「寂しい」から「よくやった」へ
上野動物園からパンダがいなくなるのは寂しい感情を伴うかもしれませんが、これは以下の理由から全く問題ありません。
- 国際協定による返還義務を果たしただけである。
- 日本が種の保全という国際的な役割を果たすことができた証拠である。
- 国内の他の希少動物の保全に目を向ける良い機会になる。
私たちは、可愛いパンダの姿を「見たい」という消費者としての欲望を一度脇に置き、「絶滅から救う」という本来の目的を達成できたことに、資金を拠出してきた国民として「よくやった」と静かに拍手を送るべきでしょう。