先日、大阪地方裁判所で、会社の三次会という場での上司によるセクハラ行為について、被害女性の精神疾患が業務上のものとして初めて労災認定されるという画期的な判決が下されました。
この判決は、「飲み会はプライベートな場」とされがちだったこれまでの認識を覆し、会社や上司が負うべき責任の範囲を明確にした点で、非常に大きな意味を持っています。
🚨 事案の概要と裁判所の判断のポイント
この事案は、三次会という時間帯・場所で上司から被害女性への執拗な性的な言動や身体的接触があり、それが原因で女性が精神疾患を発症したというものです。
1. 「業務遂行性」と「業務起因性」の判断
労災認定を受けるには、怪我や病気が**「業務遂行性(仕事中に起きたか)」と「業務起因性(仕事が原因か)」**の二つの要件を満たす必要があります。裁判所は、三次会という場であっても、以下の点から「業務遂行性」を認めました。
- 上司・部下という関係性: 職務上の上下関係は、三次会という場でも継続している。
- 拒否の困難性: 上司の誘いや言動を、部下という立場から断ることは「事実上困難」であったと認定。
- 会社の支配下: 一連の会合(一次会、二次会、三次会)が事実上の会社の活動の延長線上にあると判断されました。
2. 精神疾患の原因としての認定
裁判所は、上司のセクハラ行為が女性に与えた精神的負荷は**「極めて強度」**であり、発症した精神疾患が業務によって引き起こされた(業務起因性がある)と認めました。
💔 具体例で考える:「断りたくても断れない」状況とは?
なぜ、三次会のような場でも「業務の延長」と見なされ、セクハラを断るのが困難だったのでしょうか。具体的な心理的・立場的な状況を考えてみましょう。
| 状況の例 | 被害者が抱く心理・懸念 |
| 三次会の参加 | 上司からの誘いを断ると、「協調性がない」「次の人事評価に響く」といったネガティブな印象を持たれかねない。 |
| セクハラ行為 | その場で強く拒絶すれば、職場で気まずくなったり、**報復(パワハラ化)**されるリスクを恐れてしまう。 |
| 帰宅の誘い | 上司に気に入られなければ、仕事の機会を失う、または不利益な配置転換をされるのではないかと不安になる。 |
- 具体例1: 職場で最も権力を持つ上司が「もう少し二人で飲まないか?」と誘ってきた場合、建前上は自由意志でも、部下にとっては業務命令に近い圧力として受け取られることがあります。
この裁判所の判断は、**「部下の拒否の自由が奪われていた」**という点を明確にした点で、非常に画期的でした。
🛡️ この判決が企業と社会に与える影響
今回の労災認定判決は、企業や従業員、そして社会全体に対し、以下の重要なメッセージを投げかけています。
1. 企業の責任範囲の拡大
企業は、従業員が通常の勤務時間外やオフィス外であっても、職場の上下関係が影響する限り、ハラスメントが発生しないよう配慮する義務があるという認識が強まります。
- 企業が行うべき対応:
- ハラスメント防止規定の徹底: 会社の飲み会や懇親会を含め、時間外や社外でもセクハラ・パワハラは適用されることを明記し、全従業員に周知徹底すること。
- 相談窓口の独立性強化: 被害者が安心して相談できる、上司や人事から独立した窓口の設置と機能強化。
2. 被害者の「泣き寝入り」を防ぐ一歩
これまで、「飲み会だから」「プライベートだから」と諦めていた被害者が、声を上げやすくなるきっかけとなります。
- 具体例2: 今回の労災認定は、公的な制度が「職場の上下関係を背景としたハラスメント」を業務上の問題として認めたことであり、被害者が精神的な治療費や休業補償を受けるための大きな後押しとなります。
🕊️ まとめ:セクハラは「個人の問題」ではない
今回の大阪地裁の判決は、セクハラが単なる「個人の間の問題」ではなく、**「職場という構造的な問題」**であり、企業が積極的に防止し、責任を負うべきであることを明確に示しました。
私たちは、この判決を機に、職場のハラスメントに対する意識をさらに高め、誰もが安心して働ける環境づくりを目指さなければなりません。