はじめに:北海道で起きた“ヒグマ駆除抗議”騒動とは?
2025年7月、北海道で新聞配達員がヒグマに襲撃されるという痛ましい事件が起きました。命に関わる深刻な事態を受け、北海道庁は安全確保のために該当のヒグマを駆除。しかし、この対応に対し「クマがかわいそう」といった抗議電話が殺到し、一部では2時間以上も電話応対を強いられる事態に。
なぜ、明らかに人命を脅かす状況にもかかわらず、ヒグマ駆除に抗議する人が現れるのでしょうか?今回は、抗議の背後にある思想や背景について、できる限り客観的に分析していきます。
1. 抗議する人たちの主な傾向と立場
(1) 動物愛護団体・アニマルライツ系の活動家
「命はすべて平等」とする倫理的立場から、人間よりも野生動物の保護を優先する傾向があります。SNSやオンライン署名などで活動する人が多く、電話やメールで行政に圧力をかける「アクティビズム」の一環として抗議することがあります。
(2) 都市部に住む“自然ロマン”志向の人々
都市で生活していると、野生動物と直接関わる機会は限られています。テレビやネットでクマのかわいらしい姿ばかりを見て、「人間が野生を壊している」と感じ、感情的にヒグマ駆除に反対するケースも見られます。
(3) SNS世代の“即席正義感”
X(旧Twitter)やTikTokなどで断片的な情報に触れ、「これはおかしい」と即座に反応してしまう若年層。詳細な状況や被害者の痛みを想像せず、声の大きな“正義の味方”になろうとする傾向があります。
2. 感情か理性か:クマと人間の命の重さ
ヒグマは本来、人間にとって非常に危険な大型肉食獣です。特に近年では山間部の人口減少、温暖化による生息域の変化により、人里に下りてくるケースが激増。実際、2019年〜2024年の間にヒグマによる人的被害は数十件にのぼり、中には死亡事故もあります。
こうした状況下で、個体の命を守ることが地域全体の安全や人命に対する危機を招く場合、どの命を優先するべきか?この問いに、動物愛護の立場から一貫した答えを出すことは困難です。
3. 行政の現場はどう対応すべきか?
電話を数時間も受け続ける職員にとっては、貴重な税金と労働力の浪費であり、他の重要な業務に支障をきたすのは明白です。抗議のすべてを無視するのは望ましくありませんが、実際に現場でヒグマの脅威にさらされている住民の声こそを最優先にすべきです。
北海道の一部自治体ではすでに「意見受付窓口」をオンラインに一本化し、電話対応を制限する動きも。今後、抗議の質を見極め、合理的な対応をとるための仕組みづくりが求められます。
4. 感情論を超えた冷静な議論の必要性
「かわいそう」という感情は、人間の優しさの一つの表れかもしれません。しかし、現実には命を落とす人が出ている以上、理性的な判断が求められます。動物の命を守ることと、人間の安全を守ること。この二つを対立軸ではなく、両立可能なものとして考えるためには、冷静な対話と情報の整理が不可欠です。
おわりに
ヒグマ駆除に対する抗議活動は、決してすべてが悪意から生まれているわけではありません。しかし、現実を無視した過激な主張は、むしろ社会の分断を深め、安全を脅かす要因にもなりかねません。私たち一人ひとりが、情報を鵜呑みにせず、事実に基づいた議論を重ねていくことが、未来の共存の第一歩となるはずです。