愛知県豊明市が市議会に提出した「豊明市スマートフォン等の適正使用の推進に関する条例案」は、全国でも異例の**「余暇時間のスマートフォン等利用は1日2時間以内を目安とする」**という内容で、大きな物議を醸しています。罰則のない「理念条例」でありながら、なぜこれほどまでに賛否両論が巻き起こっているのか、その具体的な内容と、市民・専門家の意見を詳しく解説します。
条例案の具体的な内容と目的
この条例案の正式名称は**「豊明市スマートフォン等の適正使用の推進に関する条例」**で、2025年10月1日の施行を目指しています。
1. 利用時間の「目安」設定
- 対象者: 全ての市民(全年齢)
- 対象となる時間: 仕事や勉強、通勤・通学、家事などを除いた余暇の時間
- 目安: 1日あたり2時間以内
2. 18歳未満の睡眠時間確保
- 小学生以下: 午後9時以降の利用を控えることを促す。
- 中学生以上(18歳未満): 午後10時以降の利用を控えることを促す。
3. 特徴
- 罰則なし: 法的な強制力や罰則は一切ありません。市はあくまで「目安」として、市民や家庭で利用方法を見直すきっかけを提供することを目的としています。
- 機器の定義: スマートフォンだけでなく、タブレット、パソコン、ゲーム機も対象に含まれます。
4. 制定の背景(市側の主張)
市は、福祉施策を進める中で、不登校の子どもがスマホにのめり込み家に閉じこもる事例や、親が乳幼児に長時間スマホを使わせる事例など、スマホの過剰使用が原因と見られる健康面・生活面への悪影響が把握されたため、対策として条例制定を検討しました。主な目的は、睡眠時間の確保や生活リズムの乱れを防ぐことです。
賛成派の具体的な論拠と期待される効果
条例案に賛成する意見は、主に子どもの健全育成と社会全体への意識改革に焦点を当てています。
論拠/期待効果 | 具体例 |
家庭内ルールのきっかけ | 「スマホはリビングで」「夜9時以降は使わない」など、親子で話し合い、スマホ使用に関する具体的なルールを作る動機付けになる。 |
健康被害の予防 | 睡眠不足や視力低下、運動不足といった健康被害が深刻化する中、国や自治体が問題提起すること自体に意義がある。 |
社会的な警鐘 | SNS中毒やネット依存は一部の特殊な問題ではなく、全ての市民に関わる問題であることを社会全体に再認識させる。 |
子育て世代の支援 | 育児で疲れた親が子どもにスマホを見せてしまう事例に対し、**「市も適正使用を推奨している」**という大義名分が親の行動を促す助けになる。 |
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反対・批判派の具体的な懸念と論拠
一方で、条例案は「余計なお世話」「無意味」といった強い批判にさらされています。
懸念/批判 | 具体例 |
「余計なお世話」 | 個人の自由な時間の使い道に、自治体が口を出すのは公権力の介入であり、市民の権利を侵害する恐れがある。 |
実効性のなさ | 罰則がないため、市民が条例に従う義務も動機もなく、**「絵に描いた餅」**で終わる可能性が高い。 |
計測の困難さ | 「仕事や勉強以外」という線引きが曖昧であり、誰が、どうやって2時間という時間を計測・管理するのか、現実的に不可能である。 |
市長自身の利用状況 | 条例提出時に市長自身が「(スマホ利用時間は)約4時間」と発言し、「条例の対象者自身がお手本になっていない」と批判が殺到。条例の信頼性を大きく損なった。 |
生活の変化への無理解 | リモートワークやオンライン学習が普及し、スマホが生活必需品となっている現代社会の実態を理解していない。 |
まとめ:条例案が突きつける「問い」
豊明市の条例案は、その実現性や強制力の有無を巡って議論を呼んでいますが、それ以上に、**デジタル化が進む現代社会において「人間らしい生活とは何か」「自治体はどこまで踏み込むべきか」**という根源的な問いを市民に突きつけています。
罰則がないとはいえ、この条例案が**「スマホとの付き合い方を家庭で真剣に考えるきっかけ」になるのか、それとも「単なるパフォーマンス」**に終わるのか、今後の動向が注目されます。