最近、若い世代と話していると、「失われた30年って何ですか?」「なぜ日本はこんなに少子化が進んでいるんですか?」といった質問を受けることが増えました。彼らにとっては、物心ついた時から経済は停滞し、出生数は減り続けているのが当たり前の光景。まるで、生まれた時から「そういう国」だったかのように感じているのかもしれません。
しかし、「失われた30年」も「少子化」も、決して突然始まったわけではありません。過去の出来事や社会構造の変化が複雑に絡み合い、現在の状況を作り出しています。もし、その原因を知らないまま過ごしてしまうとしたら、私たちは同じ過ちを繰り返してしまうかもしれません。
この記事では、「失われた30年」と「少子化」について、その背景にある具体的な出来事を交えながら解説し、原因を知らない世代と共に、過去から学び、未来について考えるきっかけを提供したいと思います。
「失われた30年」とは何だったのか?~バブル崩壊から長期停滞へ~
「失われた30年」とは、一般的に1990年代初頭のバブル経済崩壊後から現在に至るまでの、日本の経済が長期的に低迷している状況を指す言葉です。当時の熱狂を知らない世代にとっては、実感しにくいかもしれませんが、その影響は私たちの生活の隅々にまで及んでいます。
バブル経済とその崩壊(1980年代後半~1990年代初頭)
1980年代後半、日本は空前の好景気に沸きました。株価や地価が異常なほど高騰し、「土地神話」という言葉も生まれました。企業は積極的に設備投資を行い、人々は高級品を競って購入しました。
- 具体例1: 当時のニュース映像などを見ると、高価な外車やブランド品を身につけた人々が街を闊歩する様子が映し出されています。企業は社員旅行で海外へ行くのが当たり前で、ゴルフ会員権が数千万円で取引されることもありました。
しかし、このバブルは長くは続きませんでした。1990年代に入ると、政府の金融引き締め策などがきっかけとなり、株価と地価は暴落。企業の業績は悪化し、倒産が相次ぎました。
長期的な経済停滞へ(1990年代中期~現在)
バブル崩壊後、日本経済は深刻な不況に陥りました。企業は過剰な設備投資や不良債権に苦しみ、リストラを進めました。消費者の心理も冷え込み、物が売れない状況が続きました。
- 具体例2: 就職氷河期という言葉を聞いたことがあるでしょうか。バブル崩壊後の1990年代後半から2000年代初頭にかけて、企業の採用意欲が大幅に低下し、多くの若者が希望する職に就くことができませんでした。これは、バブル崩壊後の経済状況が長期にわたって影響を与えた結果です。
- 具体例3: デフレーション(物価が持続的に下落する現象)も「失われた30年」の特徴の一つです。物が安くなるのは一見良いことのように思えますが、企業の収益悪化や賃金の低下につながり、経済全体の活力を奪います。スーパーで商品の値段が長年変わらない、あるいは安くなっていると感じたことがあるかもしれませんが、それはデフレーションの影響かもしれません。
政府は様々な経済対策を打ち出しましたが、デフレからの脱却は容易ではありませんでした。グローバル化の波やIT革命の遅れなども重なり、日本経済は長期的な低迷から抜け出せない状況が続いているのです。
なぜ日本は「少子化」が進んでいるのか?~複合的な要因が絡み合う深刻な問題~
少子化とは、出生率が低下し、子どもの数が減少していく現象です。日本の少子化は深刻な状況にあり、将来の社会保障制度の維持や労働力不足など、様々な問題を引き起こす可能性があります。
晩婚化・未婚化の進行
結婚する年齢が上がり、生涯未婚の割合も増えています。
- 具体例4: 厚生労働省の調査によると、1970年代には20代前半で結婚する女性が多かったのに対し、現在では30歳前後で結婚する人が中心となっています。また、50歳時点で一度も結婚したことのない人の割合(生涯未婚率)も、男性で約4人に1人、女性で約8人に1人と、過去最高を更新しています。背景には、経済的な不安、キャリア志向の高まり、個人の自由を重視する価値観の変化など、様々な要因が考えられます。
出産・育児の経済的負担の増大
子育てには多額の費用がかかります。教育費、食費、被服費などはもちろん、保育園や幼稚園の費用も大きな負担となります。
- 具体例5: 子どもを大学まで卒業させるには、数千万円の費用がかかると言われています。教育費の高騰は、子育てを躊躇させる大きな要因の一つです。また、共働き世帯が増える中で、保育サービスの不足や質の課題も、出産・育児のハードルを高めています。
仕事と育児の両立の難しさ
女性が働きながら子育てをすることへの理解が十分に進んでいない企業文化や、保育サービスの不足などが、仕事と育児の両立を困難にしています。
- 具体例6: マタニティハラスメント(マタハラ)という言葉を聞いたことがあるかもしれません。妊娠や出産を理由とした不当な扱いを受ける女性が後を絶ちません。また、育児休業を取得しにくい雰囲気や、復帰後のキャリアパスが不透明であることなども、女性が出産をためらう要因となっています。
社会全体の育児に対する意識の低さ
子育ては親だけの責任であるという考え方が根強く、社会全体で子育てを支えるという意識が低いことも、少子化の背景にあると考えられます。
- 具体例7: 電車内や公共の場で子どもが泣いたり騒いだりした際に、周囲の目が厳しかったり、心ない言葉をかけられたりする経験をした親御さんもいるかもしれません。子育てに寛容でない社会の雰囲気は、親の精神的な負担となり、子育てへの意欲を低下させる可能性があります。
原因を知ることから未来は拓ける
「失われた30年」も「少子化」も、私たちの社会が抱える根深く複雑な問題です。その原因を一つに特定することはできませんが、過去の出来事や社会構造の変化を理解することで、現状をより深く認識し、未来に向けて何をすべきかを考えるヒントが得られます。
原因を知らない世代が多数になってしまったことは、ある意味で仕方のないことかもしれません。しかし、過去から目を背けるのではなく、積極的に学び、語り継いでいくことが、より良い未来を築くための第一歩となるはずです。
私たちは、過去の失敗から学び、「失われた」と言われる時間を二度と繰り返さないために、そして、子どもたちが希望を持って成長できる社会を実現するために、何ができるのでしょうか?一人ひとりが真剣に考え、行動していくことが求められています。