大分市内の廊下で、男子生徒が別の生徒に馬乗りになり、殴打や蹴りを加える様子が収められた動画。SNSで瞬く間に広まったこの映像は、単なる「学校内の喧嘩」では済まされない波紋を広げています。
1. 市教委が公表へ:問われる「学校の初動」
大分市教育委員会は、本件を「いじめ重大事態」に準ずる事案として扱い、近日中に詳しい経緯を説明する方針です。
- 調査のポイント:
- 暴行が発生した際、教師はどこにいたのか。
- 動画が撮影されていることを学校側はいつ把握したのか。
- 以前から当事者間にいじめの予兆はなかったか。
これまでの発表では、学校側は動画の存在を外部からの指摘で知った可能性があり、「監視体制の不備」が厳しく問われる見通しです。
2. 専門家が指摘する「拡散・晒し」の法的リスク
今回の事件で特徴的なのは、動画を見た第三者が「加害者を許せない」という正義感、あるいは興味本位で動画を転載・拡散している点です。しかし、これには極めて高い法的リスクが伴います。
① 名誉毀損罪・侮辱罪の成立
たとえ動画の内容が事実(実際に暴行が行われている)であっても、それを不特定多数が見るSNSに投稿し、個人の社会的評価を下げた場合、名誉毀損罪に問われる可能性があります。
- 具体例: 動画に「こいつは人殺し予備軍だ」「サイコパスだ」といった誹謗中傷を添えて拡散する行為。
② プライバシー権の侵害
加害生徒が未成年である場合、実名や顔写真、学校名を特定して晒す行為は、更生の機会を奪うものとして、多額の**損害賠償請求(民事)**の対象となります。
- 具体例: 「加害者の親の職場はここだ」と家族の情報まで晒す行為。これは被害者・加害者とは無関係な親族の権利まで侵害することになります。
3. 被害生徒への「二次被害」という深刻な側面
「拡散して世の中に知らせることが被害者のためになる」という考えは、多くの場合、間違いです。専門家は、SNSでの晒しが被害生徒をさらに追い詰めると指摘します。
- 具体例: 殴られている自分の姿がネット上に永遠に残り続け、同級生や将来の知人にまで見られる恐怖(デジタル・タトゥー)。
- 具体例: ネット上で「なぜ抵抗しなかったのか」といった被害者へのバッシング(セカンドレイプ的な攻撃)が始まるリスク。
4. まとめ:私たちはどう動くべきか
大分のケースを受け、私たちが取るべき行動は「情報の拡散」ではなく、**「適切な通報」**です。
- 動画を見つけてもリポストしない: 拡散に加担した時点で、あなたも加害者になるリスクを負います。
- プラットフォームに通報する: XやInstagramの運営側に「暴力を助長するコンテンツ」として報告し、削除を促す。
- 公的機関への相談: 法務局の「子どもの人権SOSミニレター」や警察の相談窓口へ情報提供を行う。
学校と市教委には、徹底した事実解明と被害生徒へのケアが求められます。同時に、私たちネットユーザーも「画面の向こう側の人生」に対する想像力を持ち、安易な正義感による晒し行為が、さらなる悲劇を生むことを自覚しなければなりません。