はじめに
飛行機に乗ると、揺れや雷に不安を感じる方も多いでしょう。しかし、飛行機にとって“もっとも身近で見落とされがちな脅威”があるのをご存知でしょうか?それが「バードストライク(Bird Strike)」、つまり鳥との衝突事故です。
実は、毎年世界中で数千件のバードストライクが発生しており、その一部は重大な航空事故につながっています。この記事では、バードストライクの概要、実際に起きた事故例、航空業界の対策、そして私たちが知っておくべきことを詳しく解説します。
バードストライクとは?
バードストライクとは、航空機と飛行中の鳥が衝突する事故のことです。特に離陸直後や着陸直前の低空飛行中に多く発生します。エンジンや風防、翼などに鳥が衝突することで、重大な機体損傷やエンジントラブルを引き起こすことがあります。
主なリスク箇所:
- エンジン内への吸い込み(最も危険)
- コックピットの風防(パイロットの視界遮断や破損)
- 翼・水平尾翼への損傷
バードストライクの多くは一見無害に見える鳥によるものですが、**100〜200km/h以上の速度で飛行する航空機にぶつかれば、まさに“空飛ぶ弾丸”**となるのです。
実際に起きたバードストライクの事例
■【アメリカ】USエアウェイズ1549便の奇跡(2009年)
ニューヨークのラガーディア空港を離陸した直後、航空機はカナダガンの群れと衝突し、両エンジンが停止。機長チェズリー・サレンバーガー氏の判断でハドソン川へ不時着水しました。乗客乗員155名全員が生還し、“ハドソン川の奇跡”と呼ばれました。
この事故は、バードストライクがどれだけ危険かを世界中に知らしめた象徴的な出来事です。
■【日本】関西国際空港でのエンジン火災(2017年)
大韓航空のボーイング777型機が離陸直前、バードストライクによりエンジン内で火災が発生。離陸は中止され、乗員乗客が避難スライドで脱出しました。大きなけが人はいませんでしたが、滑走路が一時閉鎖されるなどの影響が出ました。
■【オーストラリア】カンタス航空機の機体損傷(2015年)
飛行中に鳥がコックピットの風防に衝突。ガラスがヒビ割れ、急きょ着陸。幸いパイロットにけがはなかったものの、「あと数センチで貫通していた」と報告され、衝撃を与えました。
なぜ起きる?バードストライクの発生要因
- 空港周辺に鳥が集まりやすい環境がある
滑走路の周囲には湿地や農地があることが多く、餌やねぐらを求めて鳥が集まりやすいのです。 - 鳥の群れの飛行高度と航空機の飛行ルートが重なる
特にカモやカラス、トビ、ムクドリなどは高度数百メートルを飛ぶため、離着陸中の航空機と衝突しやすくなります。 - 渡り鳥のシーズン(春・秋)に頻発
鳥の移動が活発になる季節には、バードストライクの件数も増加傾向にあります。
航空業界によるバードストライク対策
■ レーダーやAIを用いた「鳥の検知システム」
一部の空港では、レーダーや高精度カメラを活用して鳥の飛来をリアルタイムでモニターし、パイロットに警告を出すシステムが導入されています。
■ 爆音機・猛禽類・ドローンの活用
- 大音量で鳥を驚かせて追い払う「バードキャノン」
- 天敵であるタカやハヤブサを使った“自然の脅し”
- ドローンを使って鳥を追尾・追い払い
■ 環境整備(餌場の除去など)
空港周辺の草地の整備、水たまりやゴミの撤去、鳥がとどまりにくい環境づくりが進められています。
私たちができること
一般市民でも、以下のような行動がバードストライク防止に役立ちます:
- 空港周辺での餌やりや野鳥への接近を控える
- ドローン飛行や花火など、鳥を刺激する行為を避ける
- 鳥の群れを見つけた際には、空港または自治体に通報
まとめ
バードストライクは、一見地味に見えて実は深刻な航空リスクのひとつです。技術の進歩によって被害は軽減されつつありますが、完全にゼロにするのは難しい現実があります。
USエアウェイズ1549便のようなケースが再び起こらないよう、航空業界と市民が一体となって予防と対策を進めることが求められています。私たちもこの問題に関心を持ち、できることから協力していきましょう。