近年、世界的に観光客数は増加傾向にあり、一見すると観光業は成長産業のように見えます。しかし、足元では収益性の伸び悩みや、構造的な課題が顕在化しつつあり、「観光業の収益性はすでにピークアウトを迎えているのではないか」という懸念の声も聞かれるようになってきました。

本記事では、具体的な事例を交えながら、観光業の収益性がピークアウトしつつある兆候を詳細に解説します。さらに、この状況を打破し、持続可能な観光業へと転換していくための対策についても考察していきます。

具体例で見る収益性ピークアウトの兆候

1. 宿泊単価の上昇鈍化とコスト増

かつて、観光客数の増加は宿泊施設の高稼働率につながり、宿泊単価の上昇を後押ししてきました。しかし近年、特に都市部においては、新規ホテルの供給過多により、需給バランスが変化しつつあります。

例えば、東京都内では2020年のオリンピックに向けて多くのホテルが開業しましたが、その後の需要回復は鈍く、宿泊単価の上昇にブレーキがかかっています。一方で、人件費や光熱費の高騰は宿泊施設の運営コストを押し上げており、収益性を圧迫しています。

地方の温泉旅館などでは、後継者不足による廃業も相次ぎ、生き残った施設では人手不足が深刻です。外国人労働者の受け入れも進んでいますが、言語や文化の違いから教育コストがかかる場合もあり、収益改善の決め手にはなりにくい現状があります。

2. 団体旅行から個人旅行へのシフトと消費行動の変化

従来の団体旅行は、旅行代理店や土産物店にとって大きな収益源でしたが、近年は個人旅行の増加が顕著です。個人旅行者は、自身の興味や予算に合わせて旅行を計画するため、画一的なツアーや高額な土産物を購入するとは限りません。

また、情報収集の手段も変化しており、SNSや旅行サイトの口コミを参考に、より安価で質の高いサービスを選ぶ傾向が強まっています。これにより、中間マージンを多く取る旅行代理店の収益は圧迫され、高額な土産物中心のビジネスモデルも転換を迫られています。

例えば、かつては中国人団体観光客による爆買いが話題となりましたが、近年はリピーターや個人旅行者が増え、より体験型の消費や、地域に根差した商品への関心が高まっています。

3. オーバーツーリズムによる観光地の疲弊と満足度低下

一部の観光地では、観光客の集中によるオーバーツーリズムが深刻化しています。これにより、交通渋滞、ゴミ問題、騒音、生活環境の悪化などが発生し、地域住民の生活に支障が出始めています。

また、観光客自身も、混雑やマナーの悪い観光客の増加により、旅行体験の満足度が低下する傾向にあります。SNSなどでのネガティブな情報拡散は、その観光地のブランドイメージを損ない、将来的な観光客数の減少につながる可能性も否定できません。

例えば、京都市の清水寺周辺や鎌倉市の小町通りなどでは、慢性的な混雑が問題視されており、地元住民からは生活環境改善を求める声が上がっています。

4. 環境意識の高まりとサステナブルな観光への要求

近年、地球温暖化や環境問題への関心が高まる中で、観光客の環境意識も変化しています。飛行機移動によるCO2排出量の問題や、プラスチックごみの問題など、従来の観光スタイルに対する批判的な意見も増えています。

環境負荷の高い観光地やアクティビティは敬遠される傾向にあり、サステナブルな観光へのニーズが高まっています。これに対応できない観光事業者や地域は、競争力を失う可能性があります。

例えば、世界遺産である屋久島では、登山道の保護やゴミの持ち帰り運動などが積極的に行われており、環境保全と観光の両立が模索されています。

ピークアウトを打破し、持続可能な観光業へ

観光業が再び成長軌道に乗るためには、従来のビジネスモデルからの脱却と、新たな視点に基づいた取り組みが不可欠です。

1. 高付加価値化と多様な体験の提供

単なる宿泊や移動の提供だけでなく、地域Uniqueの文化や歴史、自然体験などを組み合わせた、高付加価値な旅行商品の開発が重要です。これにより、価格競争に陥ることなく、収益性の向上を目指せます。

2. デジタル技術の活用と効率化

AIやIoTなどのデジタル技術を活用することで、業務の効率化を図り、人手不足の解消やコスト削減につなげることができます。また、ビッグデータを分析することで、顧客ニーズの多様化に対応した、よりパーソナライズされたサービス提供が可能になります。

3. 地域との共存とサステナビリティへの配慮

オーバーツーリズム対策として、観光客の分散化時間帯の調整予約システムの導入などが考えられます。また、地域住民との交流を促進するプログラムや、環境負荷を低減する取り組みを積極的に推進することで、持続可能な観光を実現できます。

4. 新たな客層の開拓

インバウンドだけに依存するのではなく、国内旅行の活性化や、新たなターゲット層(ワーケーション層、長期滞在者など)の開拓も重要です。多様なニーズに対応できる柔軟な商品設計が求められます。

まとめ

観光業は依然として大きな可能性を秘めていますが、従来の延長線上では収益性のピークアウトは避けられないでしょう。変化する市場環境や顧客ニーズを的確に捉え、新たな技術や発想を取り入れながら、持続可能な成長を目指していくことが求められています。

本記事が、観光業に携わる皆様にとって、現状を認識し、未来を切り開くための一助となれば幸いです。

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