これじゃみんな辞めてっちゃうよ!
かつては「安定している」「潰れない職場」として人気だった公務員。
しかし今、地方自治体、特に区役所では人材難が深刻化しています。
それに伴い、管理職のポストにも空きが増え、「本来、管理職に向かない人」が出世せざるを得ない構造ができてしまっています。
そしてその“管理職の質の低下”が、現場で働く若手職員たちの退職ラッシュやメンタル不調を引き起こしているのです。
この記事では、そんな“区役所の現場のリアル”を、具体的な例とともに掘り下げていきます。
■ そもそも、なぜ人材難なのか?
地方自治体の人手不足にはいくつかの背景があります:
- 団塊ジュニア世代の大量退職(2020年代にピーク)
- 若手の応募者数減少(公務員人気の低下)
- 非正規職員への業務依存(臨時・会計年度任用職員の比率が上昇)
- 他自治体との人材の“奪い合い”(特に首都圏)
区役所というと「窓口の人」のイメージが強いですが、実際には住民対応、福祉、保育、防災、財政、選挙といった専門業務を日々こなす重要な機関です。
その中で、経験のある職員が抜け、現場に新人だけが残る状況が慢性化しているのです。
■ 「なってはいけない人」が管理職になる構造的問題
かつては「年功序列+ある程度の能力主義」で管理職が選ばれていました。
しかし、今は人がいないので、“順番が来た人”が自動的に昇格してしまうというパターンが増えています。
具体例1:人に興味がない係長
40代後半、真面目で仕事は丁寧。でも、部下の話をまったく聞かない。育成もしない。
相談を持ちかけても「自分で考えろ」と返すだけ。
その結果、20代職員が孤立し、数ヶ月で精神的に追い詰められて休職。
「係長になったのに、誰も付いてこない」状態に。
具体例2:プレイヤー気質の課長
管理職になっても、「自分で手を動かすこと」に執着してマイクロマネジメントに走る課長。
業務の全容を部下に説明せず、「察して動け」と圧をかける。
部下は何を任されているのかも分からず、誰も主体的に動けない組織ができあがる。
■ 若手はなぜ辞めるのか?
退職した職員の声を集めると、次のような声が多く聞かれます。
- 「成長する機会がない。やる気を削がれる」
- 「上司が部下を育てようとしない」
- 「何をやっても“やり方が違う”と怒られる」
- 「失敗が許されないのに、助けてもくれない」
- 「頑張っても評価されず、結局“年功”」
結果として、転職サイトや転職エージェントに相談する20代~30代の公務員が急増しています。
■ なぜこうなってしまうのか?
これは区役所だけでなく、全国の自治体で起きている「構造的な問題」です。
- 昇進拒否が許されない風土
→断ると「非協力的」と見なされ、昇給や配置に影響 - マネジメント研修の不足
→「係長になった翌日に部下の評価を任される」こともある - “人がいない”という焦り
→「この人しかいないから昇進させよう」という“逆指名” - 年功序列と責任回避の文化
→「やる気」や「資質」よりも「年次」が重視されがち
■ これじゃ、みんな辞めてっちゃうよ…
若手職員は、少しでも違和感を持てばすぐに情報収集を始めます。
- 「区役所より年収が高くて働きやすい民間企業」
- 「リモートが可能な国家公務員や省庁系法人」
- 「スキルを活かせるNPOやベンチャー企業」
一度辞めた人が口を揃えて言うのは、
**「上司ガチャに外れたのが決め手だった」**という言葉。
つまり、人が足りない→適性のない人が昇進→現場が崩壊→若手が辞める→さらに人が足りなくなるという悪循環に陥っているのです。
■ 解決のカギは“管理職の再定義”
この悪循環を断ち切るためには、次のような取り組みが求められます:
- 管理職登用の見直し(一律昇進ではなく、希望制+適性評価)
- マネジメント教育の充実(年次別・業務別に設計)
- 現場の声の吸い上げとフィードバック制度の強化
- 心理的安全性を重視した職場づくり
さらに、**「昇進=勝ち」ではなく、「適所適材」こそが組織の本当の強さ」**という意識改革も必要です。
■ まとめ:「人がいないからしょうがない」で済ませないために
区役所は私たちの暮らしを支える“インフラ”です。
その現場が崩れてしまえば、行政サービスそのものが機能不全になります。
今、必要なのは**「適切な人を、適切な場所に」**という基本に立ち返ること。
人材難の今だからこそ、「誰でもいい」ではなく「この人に任せたい」と言える職場を作っていかなければ、未来の区役所は空洞化してしまうでしょう。
「なってはいけない人」が昇進してしまう状況は、職員にとっても、住民にとっても、不幸です。
区役所が「辞めたくなる職場」ではなく、「働き続けたいと思える場所」になるよう、いま一度、組織のあり方を問い直す時ではないでしょうか。