日本列島は、複数のプレートが複雑にせめぎ合う場所に位置しており、巨大地震のリスクが常に存在します。中でも、甚大な被害が想定される南海トラフ巨大地震と首都直下地震は、国民の関心が非常に高いテーマです。「一体どちらが先に起こるのだろうか?」と不安に感じている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、南海トラフ巨大地震と首都直下地震のそれぞれの特性、過去の地震発生のパターン、そして最新の研究に基づいた専門家の見解を詳しく解説し、どちらが先に起こる可能性が高いのか、そして私たちが今何をすべきなのかを考察します。

南海トラフ巨大地震:周期性と広範囲な被害想定

南海トラフ巨大地震は、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈み込む境界で発生する海溝型地震です。過去には、およそ100年から150年の間隔で繰り返し発生しており、前回の巨大地震(昭和東南海地震・昭和南海地震)からすでに80年近くが経過しているため、近い将来の発生が懸念されています。

  • 過去の発生例:
    • 1707年 宝永地震: マグニチュード8.6~8.7程度と推定され、津波も甚大でした。
    • 1854年 安政東海地震・安政南海地震: ほぼ同時に発生し、広範囲に大きな被害をもたらしました。
    • 1944年 昭和東南海地震 (M7.9)、1946年 昭和南海地震 (M8.0): 時間差で発生しましたが、連続した巨大地震として捉えられています。
  • 被害想定: 南海トラフ巨大地震が発生した場合、広い範囲で強い揺れに見舞われるだけでなく、巨大な津波が太平洋沿岸に押し寄せることが想定されています。被害は、東海、近畿、四国を中心に、九州や関東の一部にも及ぶ可能性があり、経済的な損失も甚大なものになると予測されています。

首都直下地震:多様な震源と切迫性の高さ

一方、首都直下地震は、首都圏の直下、主に内陸の活断層やプレート境界の浅い部分を震源として発生する地震の総称です。南海トラフ巨大地震のような明確な発生周期は見られないものの、複数の活断層が存在し、常に地震発生のリスクに晒されています。

  • 想定される震源と規模:
    • 都心南部直下地震: 東京湾北部や東京都心南部を震源とするM7.3程度の地震が想定されています。
    • 多摩直下地震: 多摩地域を震源とするM7.0程度の地震が想定されています。
    • プレート境界型地震: フィリピン海プレートと北米プレートの境界で発生するM7~8程度の地震も想定されています。
  • 被害想定: 首都直下地震が発生した場合、強い揺れによる建物の倒壊や火災、交通インフラの麻痺などが懸念されます。人口が密集している首都圏で発生するため、経済活動への影響も甚大であり、国の機能が麻痺する可能性も指摘されています。

どちらが先に来る?科学的な予測の現状

現時点では、南海トラフ巨大地震と首都直下地震のどちらが先に発生するかを科学的に正確に予測することは極めて困難です。それぞれの地震は、発生メカニズムやプレートの活動が異なるため、一方が他方の発生を直接的に引き起こすという明確な証拠は見つかっていません。

  • 南海トラフの長期評価: 地震調査研究推進本部は、南海トラフにおける地震発生の長期的な確率評価を公表しており、「今後30年以内にM8~9クラスの地震が発生する確率は70~80%程度」とされています(2024年1月1日時点)。これはあくまで長期的な確率であり、具体的な発生時期を示すものではありません。
  • 首都圏の地震活動の評価: 首都圏においても、地震調査研究推進本部が地震発生の長期評価を行っていますが、南海トラフほど明確な周期性がないため、予測はより複雑です。「今後30年以内にM7程度の首都直下地震が発生する確率は70%程度」とされています(2022年1月1日時点)。

これらの長期評価を見ても、どちらの地震がより切迫しているかを単純に比較することはできません。それぞれの評価は、異なるデータと手法に基づいて算出されており、不確実性も伴います。

過去の事例から学ぶ:連動発生の可能性

過去の巨大地震の発生パターンを見ると、南海トラフ巨大地震と首都圏の地震が時間的に近い時期に発生した事例も存在します。

  • 安政の大地震(1854年): 安政東海地震(M8.4程度)の約32時間後に安政南海地震(M8.4程度)が発生しました。また、その数ヶ月後には、現在の首都圏で安政江戸地震(M7.0~7.1程度)が発生しています。

この事例は、巨大地震が広範囲の地殻活動に影響を与え、連鎖的に他の地震を引き起こす可能性を示唆しています。したがって、南海トラフ巨大地震が首都直下地震を誘発したり、その逆のケースも理論的には考えられますが、現時点ではそのメカニズムは十分に解明されていません。

今、私たちにできること:複合的なリスクへの備え

南海トラフ巨大地震と首都直下地震のどちらが先に起こるかを予測することはできませんが、どちらの地震もいつ発生してもおかしくないという認識を持つことが重要です。私たちは、それぞれの地震がもたらす可能性のある被害を想定し、複合的なリスクに備える必要があります。

  • 地域ごとの特性に合わせた対策: 南海トラフ沿岸部では津波対策を、首都圏では建物の耐震化や火災対策を重点的に行うなど、それぞれの地域特性に合わせた防災対策が必要です。
  • 広範囲な支援体制の構築: 大規模災害が発生した場合、被災地への迅速かつ広範囲な支援が不可欠です。国、自治体、企業、そして個人が連携し、支援体制を構築しておく必要があります。
  • 情報リテラシーの向上: 正確な情報を迅速に収集し、デマや不確かな情報に惑わされないための情報リテラシーを高めることが重要です。
  • 日頃からの備えの徹底: 家具の固定、非常用持ち出し袋の準備、避難経路の確認など、基本的な防災対策を一人ひとりが徹底することが、被害を最小限に抑えるために最も重要です。

まとめ

南海トラフ巨大地震と首都直下地震のどちらが先に起こるかを現時点で予測することはできません。それぞれの地震は異なるメカニズムで発生し、相互に影響を与える可能性も否定できません。重要なのは、どちらの地震も切迫性の高いリスクとして認識し、それぞれの特性を踏まえた上で、日頃からしっかりと備えておくことです。

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