2025年11月、政府が**「出国税」の引き上げを検討していることが明らかになりました。
目的は、急増する訪日外国人観光客による観光公害(オーバーツーリズム)への対策財源を確保するためです。
同時に、日本人向けにはパスポート(旅券)手数料の引き下げ**も検討しており、観光財源の再配分が焦点となっています。
■ 出国税とは?導入から現在までの経緯
「出国税(国際観光旅客税)」は、2019年に導入された比較的新しい税金です。
正式には、日本から出国するすべての人(日本人・外国人問わず)に1回あたり1,000円を課すもので、航空券や船舶の運賃に上乗せされる形で徴収されます。
- 対象:海外へ出国するすべての旅客
- 徴収額:1人あたり1,000円(現在)
- 使途:観光地整備、出入国手続きの円滑化、観光促進事業など
導入当初は「観光立国の推進財源」として期待され、年間500億円規模の税収が見込まれていました。
しかし、コロナ禍を経て観光需要が急回復した今、観光による“弊害”を抑えるための財源としての役割が求められつつあります。
■ 政府の新方針:「観光公害」対策に使う出国税
今回の引き上げ検討の背景には、**観光公害(オーバーツーリズム)**の深刻化があります。
2025年に入り、訪日外国人旅行者数は年間3,600万人規模に達し、京都・鎌倉・富士山・白川郷などでは、
「住民生活への影響」「景観の破壊」「マナー違反」「交通混雑」などが社会問題となっています。
たとえば――
- 京都市東山エリアでは、早朝から観光客が殺到し、通学路の混雑が常態化。
- 富士山五合目では、登山マナーの悪化やゴミ放置が増加。
- 鎌倉の小町通りでは、観光客の増加で地元商店の営業に支障が出るケースも。
こうした課題に対応するため、政府は**「観光維持のための環境整備」**を名目に出国税の引き上げを検討しているのです。
■ 想定される引き上げ幅と新たな使途
関係筋によると、出国税は現在の1,000円から1,500~2,000円程度に引き上げる案が浮上しています。
税収は年間700億~1,000億円規模に拡大する見込みで、次のような分野に重点配分する方針です。
- 観光地のインフラ整備費(トイレ・ゴミ箱・案内看板など)
- 地域交通の整備(電動バス・交通整理員の配置)
- 観光マナー啓発キャンペーン(多言語教育・観光ルールの周知)
- 文化財保全や自然保護への支援
たとえば、京都市や鎌倉市などでは、観光客が増えるほど清掃費や交通整備費が増加しており、これらを“訪日需要の恩恵を受ける国全体で支える”仕組みを目指す考えです。
■ 邦人向けには「パスポート手数料の値下げ」も
一方で、政府は**「海外渡航者への負担を軽減する」という観点から、日本人が取得するパスポートの手数料を引き下げる方向**でも調整しています。
現在の旅券手数料(2025年時点)は以下の通りです。
| 有効期間 | 現行手数料 | 検討中の新料金(案) |
|---|---|---|
| 10年用 | 16,000円 | 13,000~14,000円程度 |
| 5年用 | 11,000円 | 9,000~10,000円程度 |
値下げの背景には、
- 近年のパスポート発給数の減少(コロナ後も回復鈍化)
- 出国税の増収分を邦人に還元するバランス調整
があります。
つまり、「海外旅行者への総負担を抑えつつ、観光財源を確保する」構想です。
■ 出国税引き上げへの賛否両論
賛成意見:
- 「観光公害対策の財源を明確にするのは良いこと」
- 「わずか数百円の増税で環境が守られるなら納得できる」
- 「観光業の持続性を考えれば、必要な再分配」
反対意見:
- 「実質的に“海外旅行への罰金”になっている」
- 「出国税は外国人観光客だけでなく日本人にも課されるのは不公平」
- 「観光客減少で航空業界に影響が出る可能性もある」
SNS上では特に若年層を中心に「また増税か」「海外旅行がさらに高くなる」と不満の声が多く見られます。
一方で、観光地の住民からは「これで少しでも環境改善が進むなら」との期待もあり、意見が割れています。
■ 海外の類似制度:フランスや韓国の例
日本の出国税に似た制度は、世界各国にも存在します。
- フランス:航空券に「環境税」を上乗せし、環境保全に活用。
- 韓国:出国旅客税を徴収(約1,000円相当)し、観光促進に利用。
- オーストラリア:国際観光税を約6,000円徴収しているが、国際空港整備や安全対策が目的。
これらの国と比べると、日本の出国税は金額が低く、今後の国際的な基準に合わせる動きと見ることもできます。
■ まとめ:観光立国と生活環境のバランスをどう取るか
出国税の引き上げと旅券手数料の値下げは、**「観光による恩恵と負担をどう分かち合うか」**という新しい社会課題を象徴しています。
観光は経済を支える一方で、地域に負担を生む側面もあります。
政府が今回打ち出す見直しは、単なる増税策ではなく、
“観光を持続可能な形に変えるための第一歩”と見ることもできるでしょう。
しかし同時に、国民にとっては海外旅行のコスト上昇につながる可能性もあり、慎重な議論が求められます。
今後、観光公害対策費の透明性、そして出国税の使途がどこまで明確に示されるかが、国民の理解を得る鍵となりそうです。