日本経済団体連合会(経団連)の2025年度新入社員意識調査で、驚くべき結果が出ました。調査開始から36年で初めて、新入社員の約6割が「年功序列を望む」と回答し、「成果主義を望む」を上回ったのです。この結果を単なる「意識の保守化」と見なす前に、企業が真剣に取り組むべき課題が浮かび上がってきました。


なぜ新入社員は「年功序列」を支持するのか?

多くの新入社員が年功序列を支持する背景には、いくつかの要因が考えられます。

1. 不確実な時代における安定志向 現代社会は、AIやテクノロジーの進化、パンデミック、経済の不安定化など、先行きが不透明な時代です。このような状況で、新入社員は安定したキャリア形成を求める傾向が強くなっています。成果主義は「頑張れば報われる」という期待がある一方で、「頑張っても成果が出なければ評価されない」というリスクもはらんでいます。 具体例: 成果主義を導入している企業では、部署やプロジェクトの業績悪化によって若手社員の給与が大幅に下がることがあります。一方、年功序列の企業では、多少の業績変動があっても、年齢とともに給与が安定して上昇するため、将来設計がしやすいという安心感があります。

2. 成果主義への不信感 これまでの「成果主義」が、必ずしも公平に運用されてきたわけではないという不信感も影響しています。 具体例: 成果主義と謳いながらも、実際には上司との相性や部署間の力関係によって評価が左右される「ブラックボックス」と化した評価制度が、多くの企業で問題視されています。特に、配属された部署や担当業務が個人の能力ではどうにもならない運に左右される場合、若手社員は「どれだけ頑張っても報われない」と感じてしまうのです。

3. 「チームで働く」意識の高さ 最近の新入社員は、個人で競争するよりも、チームで協力して働くことを重視する傾向があります。年功序列は、経験豊富な先輩が若手を育成し、組織全体で成果を上げていくという文化を育みやすい側面があります。 具体例: 若手社員が新しいプロジェクトに挑戦する際、成果主義の環境では「失敗したら自分の評価が下がる」というプレッシャーから、大胆な提案をためらってしまうことがあります。しかし、年功序列の環境では、先輩が失敗をフォローし、チーム全体で成長を支えるという雰囲気があるため、安心してチャレンジできるというメリットがあります。


企業が取り組むべきこと

この調査結果を単に「若者の保守化」として片付けるのではなく、企業は自社の制度を見直すチャンスと捉えるべきです。

1. 公平で透明性の高い評価制度の構築 若手社員が成果主義に納得感を持てない最大の理由は、評価制度の不透明さです。何をどれだけ達成すれば、どのような評価につながるのかを明確にする必要があります。 具体例: 評価項目を数値化できるKPI(重要業績評価指標)だけでなく、チームへの貢献度や課題解決へのプロセスなど、目に見えにくい努力も評価対象に含めるなど、多角的な評価制度を導入することが求められます。

2. 育成と評価の連動 年功序列が持つ「人材育成」というメリットと、成果主義の「公平な評価」というメリットを組み合わせることが重要です。 具体例: 若手社員の成長段階に応じて、まずは年功序列的な安定した給与を保証しつつ、特定のスキルや資格取得、プロジェクトでの貢献度に応じてインセンティブを付与するハイブリッド型の給与体系を検討するのも一つの手です。

3. 「個」ではなく「チーム」で成果を評価する 個人間の競争を煽るのではなく、チーム全体の成果を評価する制度を導入することで、若手社員が求める「チームで働く」という価値観とマッチさせることができます。 具体例: 部署全体で目標達成した場合、メンバー全員にボーナスを支給するなど、チームワークを評価する仕組みを導入することで、若手社員のモチベーション向上につながります。

今回の調査結果は、多くの企業が長年採用してきた成果主義が、必ずしも若手社員の心をつかんでいない現実を突きつけました。企業は、旧来の制度を盲信することなく、新入社員の意識変化に真摯に向き合い、より時代に合った働き方や評価制度を構築していくことが求められています。

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