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近年、「日本は観光客であふれている」という報道を目にする機会が急増しています。インバウンドの回復、円安効果、外国人観光客の急増。確かに京都や東京、北海道などの有名観光地は、かつてない混雑に見舞われています。
しかしその一方で、ある異変が静かに進行しています。
それは、日本人自身が「旅行に行けなくなっている」という現実です。
単なるオーバーツーリズムの問題ではありません。国内旅行そのものから日本人が遠ざかっている、構造的な「旅行離れ」が起きています。
第一章 数字が示す日本人の旅行離れ
観光庁の統計を見ると、外国人延べ宿泊者数が大きく回復する一方で、日本人の国内延べ宿泊者数はコロナ前の水準に戻りきっていません。
特に顕著なのが
・若年層
・子育て世帯
・年金生活者
これらの層で「泊まりがけ旅行」を控える動きが強まっています。
理由は明確です。
お金と時間の余裕がなくなっているのです。
第二章 最大の要因は「旅行費用の高騰」
現在の国内旅行は、以前と比べて明らかに高くなっています。
宿泊費はインバウンド需要を背景に上昇
交通費は燃料費高騰で値上げ
外食費も物価高で負担増
かつては家族4人で1泊2日5万円程度だった旅行が、今では7万円、8万円が当たり前になりつつあります。
賃金が十分に上がっていない中で、この負担増は日本人にとって現実的ではありません。
第三章 オーバーツーリズムが日本人を締め出す構図
観光地が混雑している原因は、外国人観光客の増加だけではありません。
宿泊施設や交通機関が、より利益の出る外国人向けにシフトしている点も見逃せません。
・日本人向けのリーズナブルな宿が減少
・外国語対応を優先したサービス設計
・繁忙期は価格を大幅に引き上げ
結果として、日本人は
「混んでいる」
「高すぎる」
「落ち着かない」
と感じ、観光地そのものを避けるようになっています。
第四章 時間の貧困という見えない壁
もう一つ深刻なのが「時間の問題」です。
人手不足により
・有給休暇が取りにくい
・休んだ分の業務が後に回る
・サービス業では連休が取りづらい
こうした事情から、特に現役世代は「旅行に行く余裕」が失われています。
お金があっても、時間がない。
時間があっても、お金がない。
この二重苦が、日本人の旅行離れを加速させています。
第五章 地方観光地が直面する二極化
皮肉なことに、観光地の中でも明暗は分かれています。
・有名観光地
外国人であふれ、価格高騰
・知名度の低い地方
日本人客も戻らず、閑散
「人が多すぎる場所」と「人が全く来ない場所」が同時に存在する、いびつな構造が生まれています。
このままでは、日本人に支えられてきた地方観光が持続不可能になります。
第六章 日本人が旅行できる国であり続けるために
本来、観光は外国人のためだけのものではありません。
自国の文化や自然を、自国民が楽しめない国は健全とは言えません。
必要なのは
・日本人向け価格帯の確保
・混雑緩和と分散観光
・家族・高齢者でも行きやすい仕組み
・休暇を取りやすい社会環境
インバウンドと国内観光の両立ができなければ、日本の観光は長続きしません。
結び
「観光立国」と言いながら、日本人が国内旅行すらできなくなる。
これは決して小さな問題ではありません。
オーバーツーリズムの裏で進む、日本人の静かな旅行離れ。
今こそ、その異常事態に目を向ける必要があります。