1982年に松田聖子がリリースした「赤いスイートピー」。作詞:松本隆、作曲:呉田軽穂(松任谷由実)という黄金タッグによって生まれたこの楽曲は、昭和を代表するアイドルポップとして長く人々の心に残り続けています。近年、この「赤いスイートピー」を氷川きよし、宮本浩次、德永英明ら多くの実力派アーティストが相次いでカバーし、再び注目を集めています。なぜ今、再び「赤いスイートピー」なのか?その背景と魅力を読み解きます。


言葉が持つ“感触”と想像の余地

「赤いスイートピー」は、明確なストーリーを提示するよりも、情景や感情を抽象的に描きながら、聴き手にイメージを委ねる構成になっています。

「春色の汽車に乗って海に連れて行ってよ」
「窓の外は雨」

このような詩的で柔らかい表現は、受け手によって解釈が異なり、それぞれの人生経験に重ね合わせて情景を思い浮かべることができます。まさに「言葉の感触」が、時代を超えて共感を呼び続ける理由なのです。


多様な“表現”が許される楽曲

氷川きよしは、美しいファルセットとジェンダーを超えた歌唱表現で、「赤いスイートピー」に新たな繊細さを吹き込みました。一方、宮本浩次はエレファントカシマシ時代のロックな魂を残しつつ、感情を揺さぶるような歌声で解釈。德永英明は「VOCALIST」シリーズでも知られるように、抑制の効いた優しい歌声で原曲の美しさをより際立たせています。

このように、「赤いスイートピー」は歌い手によってまったく違った印象を与える、非常に“解釈の余地”が広い作品であることがカバーを促していると言えるでしょう。


時代のニーズ:懐かしさと癒し

現代社会はコロナ禍や物価高、SNS疲れなどストレスの多い状況が続いています。そんな中、1980年代の音楽が「ノスタルジーと癒し」を提供する存在として再評価されています。

「赤いスイートピー」は、春の旅立ち、淡い恋心、別れの予感といった心の機微を描きながら、押しつけがましさのない自然な情感を湛えています。だからこそ、多くの人が“ふと戻りたくなる”心の原風景として、この曲に惹かれるのです。


歌詞の時代性と普遍性のバランス

「赤いスイートピー」には、1980年代初頭の空気感が色濃く反映されています。しかし、言葉の選び方や旋律の運び方には、どこか“時代を越える力”があります。恋の切なさや、旅立ちの不安と希望、そういった普遍的な感情を、決して重くならずに描き出すこの楽曲は、令和の今でも心に沁み入るのです。


終わりに:人と時代をつなぐ「歌の遺伝子」

「赤いスイートピー」は単なる懐メロではありません。それは、人と人、時代と時代を結ぶ“歌の遺伝子”のような存在。様々なアーティストが自分なりの解釈で歌い継ぐことで、その遺伝子は変化し、豊かに広がっていきます。

今また、「赤いスイートピー」が多くの人の心に響く理由。それは、言葉の“感触”が聴き手の記憶や想像力を優しく刺激するからに他なりません。そしてこれからも、この名曲は多くのカバーとともに新しい命を吹き込まれていくことでしょう。

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