ガソリン税の暫定税率廃止で加速する恒久財源確保の道…導入されると「地方民」と「物流事業者」は大打撃か


ガソリン税から走行距離課税へ

政府内で「走行距離課税」の議論が本格化しています。きっかけとなったのは、ガソリン税の暫定税率(いわゆる“ガソリン税上乗せ分”)を廃止する方向が固まったことです。
従来、自動車関連税の大部分は燃料にかけられており、車を走らせるたびに税金を払う仕組みでした。しかし、電気自動車(EV)の普及が進み、ガソリンの消費量が減少。結果として「道路整備の財源が減る」という問題が浮上したのです。

その代替策として浮上しているのが、走行距離に応じて課税する仕組み。つまり「何キロ走ったか」で税金を決める制度です。


走行距離課税が導入されるとどうなる?

この制度の大きな特徴は「ガソリン車もEVも同じ基準で課税される」という点です。従来はEVはガソリンを使わないため「道路を使っても税金を払わない」状態でしたが、走行距離課税なら公平に負担させられるという理屈です。

ただし、問題はその負担が「地方民」と「物流事業者」に偏って重くのしかかることです。


地方民への影響

都市部では公共交通機関が発達しているため、自動車がなくても生活できます。ところが地方では、車は生活の足そのもの
例えば:

  • 新潟県の農村地域では、スーパーまで片道10km以上という家庭が珍しくない。
  • 島根県や高知県など公共交通が少ない地域では、通勤や通学、病院通いに車が必須。
  • 高齢者も「買い物弱者」と化さないためには車が欠かせない。

こうした地域で走行距離課税が導入されれば、単純に生活コストが跳ね上がります。「車に乗らなければ暮らせない人ほど負担が大きい」という不公平感が生まれやすいのです。


物流事業者への影響

もう一つ大打撃を受けるのが物流業界です。

  • 長距離トラックは1日で数百kmを走行
  • 年間では1台あたり10万km超を走る車両も多い
  • 大手運送会社は数千台規模で車両を保有しており、仮に「1km=1円」の課税でも年間数億円の負担増となる

例えば、北海道から東京まで野菜を運ぶ冷凍トラック。片道約1,200kmを走行します。もし走行距離課税が導入されれば、往復で2,400円の追加課税。これが毎日積み重なれば、最終的に食品価格の上昇へ直結します。

つまり、物流業者の負担はそのまま消費者が払う「物価高」として跳ね返ってくる可能性が高いのです。


すでに導入している国の例

海外でも同様の議論は進んでいます。

  • 米国オレゴン州では「走行距離課税」の実証実験を行い、車に装置をつけて走行距離を計測。燃料税と比べて公平だとされる一方、プライバシーや事務コストの問題が浮上しました。
  • ニュージーランドではディーゼル車に対して「重量・走行距離課税」を導入。物流業者のコスト上昇が課題となっています。

日本でも同様の課題が再現されるのは確実です。


課題は「公平性」と「監視社会化」

走行距離課税には次のような問題が指摘されています。

  1. 地方と都市で負担の差
    車依存度の高い地方民が割を食う構造。
  2. 物流コスト=物価高
    トラック輸送が主流の日本では、生活必需品の値上げに直結。
  3. 走行データの収集方法
    車載器やGPSを使うと「監視社会化」への懸念が生まれる。
  4. 行政コストの増大
    ガソリン税は徴収が簡単だが、走行距離課税はシステム整備や管理コストが大きい。

まとめ:走行距離課税は“公平”か、それとも“逆差別”か

政府は「EV時代に対応した公平な税制」と説明していますが、実際には車に頼らざるを得ない人々が最も重い負担を背負う仕組みになりかねません。

ガソリン税の暫定税率廃止は一見すると朗報ですが、その裏で「新たな税の網」が広がる可能性があります。走行距離課税が導入されれば、地方の暮らしも物流の仕組みも大きな影響を受け、最終的には私たち消費者の生活に直撃するのです。

「公平な税制」と「生活の実態」。この両者のバランスをどうとるかが、今後の大きな課題となりそうです。

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