最近、「育休もらい逃げ」という言葉を耳にすることがあります。これは、従業員が育児休業制度を利用した後、復職することなく短期間で退職してしまう行為を指す俗語です。

この行為は、企業にとって採用・育成コストの無駄や、代替要員の確保といった大きな負担となります。今回は、この「育休もらい逃げ」が企業に与える具体的な問題と、法的な側面、そして対策について詳しく解説します。


🚨 「育休もらい逃げ」とは? 具体的な事例

「育休もらい逃げ」は法律用語ではありませんが、企業側の視点から見た**モラルハザード(倫理の欠如)**と捉えられています。

1. 典型的な「もらい逃げ」の具体例

  • 具体例1:
    • Aさんは、入社後すぐに妊娠し、法定ギリギリの期間(例えば1年半)の育児休業を取得しました。
    • 育休終了後、Aさんは復職日を迎える直前や、復職してわずか数週間で**「実家の手伝いのため」**などの理由で退職を届け出ました。
    • この結果、会社は育休期間中の社会保険料負担(会社負担分)を続け、Aさんのために代替要員を配置したにもかかわらず、そのコストが全て無駄になりました。

2. 企業が被る具体的な損害

企業は、育休を取得した従業員のために、目に見えるコストと見えにくいコストを負担しています。

損害の種類具体的な内容
コスト負担育休中の社会保険料の会社負担分の支払い継続(従業員負担分は免除されますが、会社負担分は発生します)。
人的負担育休期間中の代替要員の採用・教育コスト。また、業務引き継ぎの非効率。
機会損失復帰を前提に配置していたポストが再び空席となり、事業計画の遅延や、優秀な人材を失うことによる機会損失
モラル低下他の従業員が不公平感を抱き、社内の士気やモラルが低下する。

⚖️ 「もらい逃げ」は違法か? 法的な側面

「育休もらい逃げ」は、従業員の**「退職の自由」「育児休業の権利」**という二つの権利が絡むため、単純に違法と断定することはできません

1. 退職の自由の原則

労働者には、職業選択の自由と退職の自由が憲法で保障されています。会社は、従業員に対し「復職後〇年間は退職しないこと」という縛りを課すことは、原則として違法です。

2. 育休手当の不正受給ではない

育児休業給付金(ハローワークから支給)は、**「育児休業中に支給されるもの」**であり、支給後に退職したからといって、給付金自体が不正受給になるわけではありません

ただし、**「最初から復職の意思がなく、給付金を受け取る目的で虚偽の申請をした場合」**など、明らかな詐欺的行為が証明できれば、法的な問題となる可能性はあります。しかし、実際に復職の意思を証明することは極めて困難です。


🛡️ 企業が取るべき現実的な対策

法的に従業員の退職を強制的に阻止することはできませんが、企業側は「もらい逃げ」のリスクを最小限に抑えるための対策を講じる必要があります。

1. 丁寧なコミュニケーションとキャリア支援

最も有効な対策は、従業員との信頼関係を維持することです。

  • 具体例2:
    • 定期的な連絡: 育休中もハラスメントにならない範囲で、会社の状況や制度変更について定期的に情報提供を行う。
    • 復帰面談の実施: 復帰前に上司や人事担当者による面談を実施し、復帰後の働き方(時短勤務の有無など)やキャリアプランについて丁寧にヒアリングする。

2. 就業規則と制度の明確化

育児休業の取得条件や復帰後の配置について、就業規則に明確に記載します。

  • 具体例3: 育児休業を取得できる条件として「引き続き1年以上雇用されている者」など、法律の範囲内で会社の要件を定めることで、入社直後の「もらい逃げ」リスクを軽減できます。

3. 会社負担分の社会保険料徴収の合法性(注意点

**「退職時に育休中の会社負担分の社会保険料を請求する」**という特約を事前に結ぶことは、労働基準法違反の可能性が高く、非常にリスクが高いため、絶対に避けるべきです。法律上、保険料は「賃金」ではなく「負担」とされ、会社にその徴収権は認められません。

「育休もらい逃げ」は、制度の悪用という側面はありますが、企業側も従業員が**「長く働き続けたい」**と思えるような職場環境づくりや、復帰後のキャリアパスの明確化に注力することが、最も有効かつ合法的な対策となります。

投稿者 ブログ書き