はじめに
「定年退職したら、のんびり趣味や旅行を楽しみたい」――そんな将来像を思い描いていた人は多かったはずです。しかし、現代日本ではその夢が急速に崩れつつあります。
物価は上がる一方、賃金は「上がったように見えるだけ」。その結果、60歳を超えても生活のために働き続けなければならない、そんな現実が当たり前になっていることに、私たちはどこかで慣れてしまっているのかもしれません。
1. 物価は上がった。問題は“上がりすぎた”
2020年代に入ってから、日本ではエネルギー価格、食品、日用品、光熱費、家賃などほぼすべての生活コストが急激に上昇しています。
- 食品:10年前より約20〜30%上昇(卵、パン、油などは特に顕著)
- 電気・ガス代:前年比で2桁上昇が当たり前
- 医療費・介護保険料:高齢者の負担も年々増加
つまり、定年後の生活設計で想定していた支出では到底足りなくなっているのです。
2. 「賃上げ」は幻想だった?手取りはむしろ減少傾向
最近、「企業が賃金を上げ始めた」と報道されることも増えましたが、それが即ち生活の改善を意味しているわけではありません。
実際のところ:
- 賃金が上がっても、社会保険料・税金が増えて手取りは増えない
- 物価の上昇率に比べると、賃金の上昇は“追いついていない”
- 非正規雇用者や中小企業勤めの人には“賃上げ”の恩恵すら届いていない
つまり、名目賃金だけが上がって「生活が楽になった気分」だけを演出されている状態なのです。
3. 「働かないと生きていけない」高齢者のリアル
本来、60歳以降は「セカンドライフ」と言われ、余生を楽しむはずの時期です。しかし今、多くの人がこの年齢でも以下のような現実に直面しています:
- 公的年金だけでは生活が到底成り立たず、アルバイトやパートに出る
- 賃貸で暮らす高齢者は、家賃支払いのために週5勤務
- 配偶者の医療・介護費用を捻出するため、深夜コンビニで働く老夫婦
しかも、こうした生活が「例外」ではなく**“当たり前”になりつつある**ことに、多くの人が気づいていません。
4. リタイアを許さない社会システム
社会は表向きには「人生100年時代」「シニア活躍」などと明るく言いますが、その実態は次のような構図です:
- 年金制度は“自己責任型”にシフトし、支給年齢が引き上げられていく
- 住宅ローンや教育ローンの返済が長期化し、60歳でも借金が残る
- 終身雇用制度は崩壊し、雇用の不安定化で再就職も困難
つまり、システムそのものが「定年=引退」を許していないのです。
5. それでも多くの人が気づいていない理由
- 「みんな同じだから仕方ない」という集団心理
- メディアによる“明るい老後”キャンペーン
- 若いうちは実感がわかず、将来の危機に鈍感
気づいたときにはもう遅いというのが、今の日本の怖いところです。
6. 私たちはどう備えるべきか?
- 早いうちから“老後=働かない”という前提を捨てる
- 投資や副業など、複数の収入源を持つことを検討する
- 家計を見直し、固定費(家賃、通信、保険など)を減らす
- 「引退後の生活設計」を今すぐ数字で具体的に描くこと
おわりに
気づかないうちに「死ぬまで働かされる社会」が出来上がっていました。誰かが意図して作ったわけではなく、物価・税・制度・空気がすべて“そっちの方向”に流れていったのです。
この流れを止めるのは、国でも企業でもありません。自分の生活設計に責任を持ち、早めに行動すること。それだけが、自分の未来を守る手段です。