夏の風物詩ともいえる参議院議員選挙。テレビやSNSでは各政党がこぞって政策を訴え、舌戦を繰り広げています。「暮らしを良くする」「未来を創る」といった力強い言葉が飛び交う一方で、私たちの心の中には「本当に投票する意味があるのだろうか?」「どうせ誰がなっても同じなのでは?」という冷めた思いがよぎる人も少なくありません。
今回は、なぜ多くの有権者が「投票しても意味がない」と感じ、最終的に「棄権」という選択肢を選ぶことになるのか、その背景と具体的な理由について掘り下げて考えてみたいと思います。
「言いたい放題」の公約、本当に実現されるの?
選挙期間中、各政党は耳障りの良い公約を掲げます。例えば、こんな言葉を聞いたことはありませんか?
- 「消費税はゼロに!」
- 「教育費は完全無償化!」
- 「年金は絶対に減らしません!」
どれも国民にとって魅力的な響きを持つ言葉です。しかし、冷静に考えてみると、その財源や具体的な実現可能性が不明瞭なものが少なくありません。
具体例:消費税減税の公約
ある政党が「消費税をゼロにする!」と強く訴えたとします。国民としては非常に助かる話ですが、同時に「本当にできるのか?」という疑問が湧きます。消費税は国の重要な財源であり、これをゼロにすれば他の税金で補填するか、大規模な歳出削減が必要になります。
選挙が終われば、こうした「言いたい放題」とも取れる公約の実現は棚上げされ、結局は「予算の都合で」「国際情勢の変化で」といった理由でトーンダウンしていく…といった光景を私たちは何度も見てきました。この繰り返しが、「どうせ口先だけ」という政治不信を生み出す大きな要因となっています。
頻繁な政権交代と「リセット」される政策
近年、日本の政治では首相が短期間で交代したり、政権の枠組みが変わったりすることが珍しくありません。これにより、それまで進められていた政策が途中で見直されたり、時には完全に白紙に戻されたりすることも。
具体例:特定政策の迷走
かつて、ある分野で国家的なプロジェクトが立ち上がり、多額の税金が投入され、国民の期待も高まりました。しかし、政権交代によりそのプロジェクトは「見直し」の名の下に大幅に縮小されたり、方向性が大きく変更されたりしました。
このような経験をすると、「せっかく投票で選んだ政治家が打ち出した政策も、次の選挙で状況が変われば無駄になるのではないか?」という徒労感が募ります。結果的に「誰に投票しても、どうせ一貫した政策は期待できない」という諦めにつながってしまうのです。
「消去法」でしか投票できない現実
理想の政党や候補者が見当たらない場合、多くの有権者は「最もマシなところ」を選ぶ、いわゆる「消去法」で投票先を決めざるを得ません。
具体例:A党とB党の選択
例えば、A党は外交政策は評価できるが、経済政策には疑問がある。一方、B党は経済政策は魅力的だが、安全保障政策には不安がある。どちらも完璧な選択肢ではなく、国民は「どちらかというとマシな方」を選ぶことになります。
このような「消去法」が続くと、有権者は「積極的にこの候補者を応援したい!」というポジティブな気持ちよりも、「これ以上ひどくならないために」というネガティブな動機で投票することになります。これでは、政治参加への意欲が高まるはずもありません。
政治と生活の距離感
政治のニュースは連日報じられますが、それが日々の生活にどう影響するのか、実感しにくいという声もよく聞かれます。特に若年層に顕著な傾向です。
具体例:年金問題と若年層
将来の年金制度について議論が白熱しても、現役世代、特に若い世代にとっては「まだ先の話」と感じられがちです。「今の生活が苦しいのに、何十年も先の年金の話をされてもピンとこない」という声もあります。
また、政治家の不祥事やスキャンダルばかりがクローズアップされ、真面目に政策に取り組む姿が見えにくいことも、政治への信頼感を損ねる要因となっています。
そして「棄権」へ…
こうした状況が重なることで、多くの有権者は「投票してもどうせ何も変わらない」「自分の1票では何も影響しない」という結論に至り、最終的に選挙に行くことを諦め、「棄権」という選択をしてしまうのです。
もちろん、投票は国民の権利であり義務でもありますが、この「棄権」という選択も、ある意味では現在の政治状況に対する意思表示なのかもしれません。
投票は本当に意味がないのか?
ここまで「投票しても意味がない」と感じる理由を述べてきましたが、では本当に意味がないのでしょうか?
私は、決してそうではないと考えています。
「どうせ変わらない」という諦めは、政治家をより「言いたい放題」にさせる土壌を作りかねません。私たちの1票は小さくても、積み重なれば大きな力になります。
- 投票率が上がれば、政治家は国民の意思をより真剣に受け止めざるを得なくなります。
- 「この政策は実現してほしい」という意思表示は、候補者や政党を動かす原動力になります。
- 「こんな政治家は嫌だ」という意思表示は、特定の候補者を落選させる力になります。
たとえ完璧な候補者がいなくても、それぞれの公約や姿勢を比較し、「より良い未来につながる可能性のある選択」をすることが、私たちの社会を変える第一歩になるのではないでしょうか。
「どうせ」と諦める前に、もう一度、私たちの手で政治を動かす可能性について考えてみませんか。