かつて「売り手市場」と言われた日本の労働市場。しかし、現実には「人手不足が深刻」と報じられる一方で、「就職できない」「正社員になれない」という声も増え続けています。実際、フリーター、非正規、長期無職の数は高止まりを続け、ミスマッチの構造は改善されるどころか悪化しているともいわれています。

ではなぜ、日本では「人手不足」と「無職の増加」という矛盾が同時進行しているのでしょうか?


1. 求められている人材と求職者のスキルが合っていない

まず最も大きな要因は、「スキルミスマッチ」です。
企業が欲しがっているのは、即戦力で、一定のスキルや経験を持った人材。しかし現実には、未経験の若者や、ブランクのある中高年、あるいは専門性のない就職希望者が多数。

たとえば、ITエンジニアや介護福祉士といった分野では人手不足が深刻ですが、これらの仕事は専門知識や資格が必要で、誰でもすぐに働けるわけではありません。


2. 労働環境が過酷すぎる

建設、介護、運送、外食産業など、慢性的な人手不足に悩まされる業界は、給与が低く、労働時間が長く、精神的・肉体的に過酷なケースが多く見られます。

「誰でも採用する」と言われながらも、実際に働いてみるとブラック労働の実態に耐えられず、すぐに辞めてしまう人も少なくありません。これにより、人手不足が慢性化し、求人を出しても人が定着しない悪循環に陥っています。


3. 年齢と空白期間の「見えない壁」

特に40代以上の中高年の再就職は、日本では非常に厳しい現実があります。
「年齢不問」と書かれた求人も多いものの、実際には書類選考の段階で落とされるケースが多発。長期離職期間があると「仕事の感覚が鈍っているのでは?」といった偏見も根強く残っています。

たとえ本人にやる気があっても、企業側が「若い方が吸収が早い」と採用を敬遠する現実は変わっていません。


4. 非正規化と「使い捨て」構造

企業は正社員として雇うリスクを避けるため、短期契約の派遣やアルバイトを増やしてきました。
その結果、安定した収入を得られない労働者が増加。キャリア形成ができないため、次のステップに進むための経験や実績も積みにくく、ますます正社員への道が遠ざかるという現象が起きています。


5. ハローワークと求人サイトの限界

公共職業安定所(ハローワーク)や民間求人サイトでも、多数の求人が掲載されていますが、「実際に応募しても連絡が来ない」「面接で門前払いされた」という声も。

また、掲載されている情報が実態と違う「釣り求人」だったり、面接に行って初めて労働条件が変わるケースもあり、求職者の不信感も募っています。


6. 社会全体の「自己責任論」

無職が増えることに対して、「努力が足りない」「本人の問題」と片付ける風潮も、再チャレンジを阻んでいます。支援を受けようとしても「若いから大丈夫」「怠けてるだけでは?」と冷たい対応を受け、精神的に追い込まれるケースも増えています。

本来は、教育・職業訓練・生活支援などを含めた再出発のための仕組みが必要ですが、今の日本では「自力でなんとかしろ」が基本スタンスになっているのが現状です。


まとめ:人手不足はあるが「雇う気がない」「働ける状況が整っていない」

結論として、日本で無職が増えているのは、働く意思がない人が多いからではなく、

  • 労働条件が悪い
  • 雇う側が厳しすぎる
  • キャリア形成の機会が少ない
  • 社会が受け皿を用意していない

という、複合的な社会問題が背景にあるからです。

今後、この矛盾を解決するには、「スキルを磨く個人の努力」だけでなく、国や企業が「働きたい人が働ける環境を整備する」ための本格的な改革が不可欠です。

投稿者 ブログ書き