和歌山県御坊市を走るローカル線「紀州鉄道」が、今、深刻な廃線危機に直面しています。その背景には、ローカル鉄道が抱える共通の課題だけでなく、この鉄道特有の具体的な事情が絡み合っています。早ければ2026年(令和8年)中にも廃線となる可能性が指摘されており、地元では大きな波紋を呼んでいます。
一体、紀州鉄道に何が起きているのでしょうか?具体的な事例を交えながら、その現状を詳しく解説します。
1. 📉経営の悪化と「親会社」の方針変更
紀州鉄道は、不動産業やホテル業などを営む「紀州鉄道株式会社」の子会社ですが、近年、その親会社の経営状況と方針が大きく影響しています。
具体的背景:中国系企業による買収と方針転換
紀州鉄道株式会社は、以前に中国系企業に買収された経緯があり、親会社の経営方針が大きく転換したとされています。
- かつての事業中心: 以前はゴルフ場開発などが中心でしたが、買収後はその方針が変更されました。
- 鉄道事業への意向: 新しい親会社は、収益の見込めない鉄道事業の継続に対して廃止の意向を示しているとされ、これが存続に向けた最大の障害となっています。自治体も親会社の意向があるため、公的な支援に及び腰になっているのが現状です。
2. 💰運賃値上げができない構造的な問題
ローカル鉄道の収益改善策として運賃の値上げは有力な手段ですが、紀州鉄道ではそれが非常に困難な状況にあります。
具体的な問題:運賃値上げ申請に必要な人材の欠如
運賃改定を行うためには、国土交通省に認可申請を行う必要がありますが、この申請書類の作成が大きなハードルとなっています。
- 申請書作成能力を持つ社員の退社: 認可申請書を作成・執筆できる経験豊富な社員が退社してしまったため、会社内にその業務を引き継ぐ人材がいなくなってしまいました。
- 運行への支障: 別の社員を他社に出向させて申請書の書き方を学ばせるという選択肢もありますが、紀州鉄道はただでさえ運行に必要な人員が限界ギリギリの人数で回しているため、一人でも欠けると運行そのものに支障が出てしまいます。
このため、構造的に運賃の値上げによる収益改善の道が閉ざされているのです。
3. 😥限界を迎える「人的リソース」
紀州鉄道は、日本の鉄道の中でも特に運行距離がわずか2.7kmという短い路線です。しかし、この短さにもかかわらず、運行を維持するための人的リソースは限界に達しています。
具体的な事例:大串部長の奮闘
- 兼任体制の限界: 報道によると、会社の部長職にある社員が、本来の業務だけでなく実際に運転業務まで行うなど、ほとんど限界の人数で運行を維持している状況です。
- 「中の人」の負荷: このような状況は、日々の運行の安全と安定性を保つ上で、社員一人ひとりにかかる負荷が極めて高くなっていることを示しており、持続可能性に影を落としています。
4. 🛤️廃線回避の「最後の望み」は?
現在、紀州鉄道の存続の可能性は、**「引き継ぎ先の企業が見つかるか」**にかかっています。
- 事業譲渡の可能性: 新しい親会社が廃止を回避するためには、鉄道事業を引き継いでくれる別の企業を見つけることが唯一の現実的な道とされています。
- 手続きのハードル: しかし、仮に引き継ぎ先が見つかったとしても、それに伴う社名変更などの法的手続きが必要となり、時間と労力がかかります。
これらの困難な状況が重なり合った結果、早ければ2026年中の廃線が「濃厚」と指摘される事態に陥ってしまっているのです。
🌍まとめ:日本のローカル鉄道が直面する現実
紀州鉄道の危機は、過疎化や車社会の進行といった日本のローカル鉄道が共通して抱える問題に加え、「親会社の意向」「専門知識を持つ人材の不足」という特有かつ深刻な事情が重なった結果と言えます。
地域住民の足であり、観光資源としても期待される紀州鉄道が、このピンチを乗り越えられるのか、今後の動向から目が離せません。